ひとつの思い出にすぎない。
初めて会った時から今まで、時に途切れたりもしたけれどずっと、緩やかな好意を感じていた。
わたしもまた、嫌ではなかった。異性に対して恐怖を抱く気持ちが多かったがこの人は何故だか怖くなかった。
出会ってから2年と半年過ぎた。ある日私は緩やかだった好意が、強いものに変わった瞬間を見てしまったかもしれなかった。確信は持てなかった。
古典の授業で席をくっつけた時、聞いてみた。
「揺れすぎwなんだか嬉しそうだね、どうしたの。」
すると面白がって余計に揺れた。
「なーんもないよ。」
「嘘だ、ゆってごらんよ」
「無理、絶対言わない(笑)」
優しい目をしてこちらを見て、ふっふっふと笑っていた。私はそんな優しい目で見ないでよと 目で言った。
どっちだろう、授業の前からの流れでこれは、と思っていたのだけど。ともあれ相手が嬉しそうだから私も少し嬉しかった。
ある日 手が触れた。
またある日 また手が触れた。
スパンは長いけど、たまに。ただ あ 触れた と思いながら相手にとってはどうってことないんだろうなと思っていた。なぜなら、彼にはとても仲のいい異性の友達がいるから。よく触れ合うね。その友達は、彼とは恋愛関係にはならないけれども、そのくせ私と彼が仲良くするのが好ましくないようだ。分からなくもない、彼女の機嫌を損ねたくもない、面倒にもしたくない、と思っていた。
LINEをするようになった。
私も、仲良くなりたいなと思う。でも自分から思い切って近づけない、クラスの女子達の目が気になる。これ以上詳しくは書かないけど、とにかくそういうこと。
たまにふと、会いたいなと思う、二人で会って、二人で話をしたいなと思う。叶わないだろうけど。
席に座っていると、ふらふらっと寄ってきて、眼力のあるその目で、顔をのぞき込んだり、ニヤニヤしているその口元から柔らかい声を発したりした。
目が合う回数が多くなって、その度はにかむようになった。意識的には目を合わせるようになっていた。彼の目は大きいから、目が合うとバチッという音がしているようだった。
これからどうしようか。
「今から帰り?」
「うん」
「今日はままのお迎え?」
「今日は歩き」
「そうなんだ。私はバス待ち。」
「そっか」
「ねえねえ、この前送ってくれたToLOVEる見てた時さ、居間で開いちゃってて音量でかかったからちょっとやばかったよw」
「マジでww」
〜
「ちょっとだけ真面目な話していい?」
「?」
「君に出会えてよかった。異性苦手だったけど、なぜだか君は出会った時から怖くなかった、それに優しくしてくれたね。学校は楽しいことばかりじゃなかったけど、君と出会えたことは僕にとって大きな意味があったよ。」
〜
「ちょっとだけ付き合ってよ」
「え?なにを?どこに?」
「そこまで、自販機まで歩こ。それでね、ちょっと贅沢をしたい。手を繋ぎたいんだけど、いいかな?」
〜(君にとってこの時間はどういうものか分からない。でも私はこの時間だけ両思いと認識してもいいかな、我儘だけど。)
〜
最後だけ理想の別れ。さて現実の別れはこれから、どうなるのでしょうか。